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世界の文化をつくった麻:古代エジプトから使われ、日本でも愛された繊維に迫る

2021年3月5日
麻の歴史はとても古く、なんと紀元前8,000〜10,000年のエジプトで亜麻が栽培されていたそうです。紀元前2,000年のエジプト王の墓には麻栽培についての壁画もあり、ミイラは麻布で包まれていました。また、イエス・キリストの遺体を覆った「聖骸布」もリネン(亜麻布)であることが聖書の記述から読み取れます。

日本最古の麻は、縄文時代早期の鳥浜貝塚遺跡(福井県三方町)で出土した大麻製の縄です。また、日本書紀などによれば、苧麻(ちょま、ラミー)が飛鳥・奈良時代に衣服として愛用されていたそうです。

「然らば多くの日本人は何を着たかといえば、勿論主たる材料は麻であった」民俗学者・柳田国男が著書「木綿以前の事」で記したように、明治以前の日本で人々が身につけていたのは綿よりも麻でした。

古代ギリシャやローマでも愛されて、人類最古の繊維ともいわれるほど古くから使用され、19世紀頃には全繊維消費量の約1/3を麻が占めていました。麻にはたくさんの種類があって、今でも身近な繊維として使われています。

麻は20種類以上、でも日本で品質表示できるのは2種類のみ!

自然からの恵み・天然繊維のなかで、麻はもっとも涼しい繊維として知られています。植物繊維のセルロースが主成分です。肌に触れたときに涼しく感じるため、温度や湿度の高い季節に適しています。

麻の種類といえば、苧麻(ちょま、ラミー、Ramie)、亜麻(あま、リネン、Linen)、大麻(たいま、ヘンプ、Hemp)、黄麻(こうま、ジュート、Jute)を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。衣服に使われていたりするので、馴染みがありますよね。
でも、実はもっと種類があって、世界には20種類以上あるそうです。

「麻」とは植物のセルロースから作られる繊維の総称で、ラミーやリネンは麻の一種です。同じように麻と呼ばれていても、繊維を採取する部位が種類によって違います。苧麻・亜麻・大麻は茎の表皮の下部組織である靭皮(じんぴ)を、サイザル麻やマニラ麻は葉脈から採取しています。

また、原料となる植物によって特徴もそれぞれ異なります。ラミーやリネンは衣服やタオルのような日用品に、ヘンプはロープ、ジュートはカーペット基布や麻袋などの資材に、強靭性に優れるマニラ麻は帽子や紙幣などの製紙に用いられています。
なお、日本の家庭用品品質表示法では、「麻」という品質表示できるのは、苧麻(ラミー)と亜麻(リネン)の2種類に限ると明示されています。
他の麻繊維は「植物繊維」と表記するので、衣服などで麻と表示される場合はラミーまたはリネンが原料となります。
名称
種別
短繊維長mm/太さμm
主な産地
用途
苧麻(ちょま)
Ramie ラミー
蕁草科(イラクサカ)
(多年生)
70~250mm/18~30μm
中国、フィリピン、マレーシア、ブラジル
衣料、寝装、資材
亜麻(あま)
Flax、Linen リネン
亜麻科(アマカ)
(一年生)
20~30mm/15~19μm
中国、ベルギー
衣料、寝装、資材
大麻
Hemp ヘンプ
桑科(クワカ)
(一年生)
15~25mm/16~25μm
中国、フィリピン、イタリア
衣料、ロープ
洋麻(ようま)
Kenaf ケナフ
綿葵科
(あおいか)
2~6mm
タイ、インド
ひも、パルプ代用
黄麻(こうま)
Jute ジュート
田麻科(シナノキカ)
(一年生)
1~4mm/15~25μm
中国、インド、バングラディシュ
麻袋、カーペット
ケナフ
Kenaf ケナフ
洋麻科(ヨウマカ)
(一年生)
2~6mm
タイ、インド、中国
壁材、パルプ代用
マニラ麻
Abaca アバカ
芭蕉科(バショウカ)
(多年生)
3~10mm/10~20μm
フィリピン
帽子、ロープ、ひも、パルプ代用
サイザル麻
henequen ヘネケン
石蒜科(セキサンカ)
(多年生)
3~10mm/10~20μm
フィリピン、メキシコ
ロープ、ひも

苧麻(ちょま、ラミー、Ramie)

苧麻は「からむし」「まお」「からそ」と呼ばれ、多照・温暖・湿潤な気候条件の土地で育つ蕁草科(イラクサ)の多年生の植物です。原産地は東南アジアとされていて、現在は中国、マレー、フィリピン、ブラジルが主産地です。日本では越後上布、小千谷縮、能登上布、近江上布、奈良晒布、宮古上布、八重山上布など、全国各地で伝統的な麻織物が愛好されています。

繊維が太くて長くてコシが強く、天然繊維の中で最もシャリ感があります。多少粗く織っても織り糸が滑脱しにくく、優れた通気性と涼感が特徴です。リネンに比べると毛羽立ちが多く、繊維が硬いためチクチクとした触り心地ですが、色が白く絹のような光沢があり、発色も良いです。

亜麻(あま、リネン、Linen)

亜麻は亜麻科の一年生で、別名フラックスともいいます。下の写真のように、6月に「フラックスブルー」という可愛らしい花を咲かせます。茎から採った繊維で作った糸や布がリネンです。亜寒帯に適した栽培植物で、比較的寒く湿気が多い地域で良く育ちます。原産地はコーカサスから中近東とされていますが、現在の主な産地は中国、ベルギーです。

古くは亜麻の糸をライン(Line)といい、この細くて丈夫な亜麻糸からの連想で「線・筋」を意味する英単語の語源となりました。フランス語ではラン(Lin)と発音され、ランジェリー(lingerie)はリネンの女性用高級下着に由来しています。リネンが生活に欠かせないものだったことを感じますね。

リネンは繊維が細く短く、毛羽立ちが少ないので、シーツなどの衛生用品にもよく使用されています。しなやかで柔らかく、サラッとした絹に近い肌触りのよさがあります。リネン特有の黄色味を帯びた色で、ラミーに次ぐ白度・光沢があります。

麻の特徴 メリット&デメリット

丈夫で長持ち

海外には数百年にわたって使用されたリネン製品があるほど、しっかりとした繊維素材で丈夫です。綿などの自然由来の天然素材に比べて強度・耐久性があり、水に濡れると強度が60%アップし、羊毛の4倍、綿の2倍の強度を誇ります。
反面、水を含むと膨潤して収縮が起き、柔軟性・弾性回復率に乏しいため、しわになりやすい弱点があります。また、摩擦により毛羽立つため、白化しやすい素材です。洗濯で色褪せが生じ、生成りは白っぽくなります。

清涼感

天然繊維や化学繊維の中でも熱伝導性に優れ、すぐに体熱を外部へ発散するため涼しさを感じます。剛性があり、凹凸に富んだ表情を見せます。独特なシャリ感とハリ感のあるサラッとした肌触りです。水洗いすると腰がなくなり、使い込むほどに柔らかい風合いが出てきます。汗ばんでも肌に密着しないので、クールビズに最適な素材です。
特有のハリと風合いを出すために撚りを強くかけているため、縮みやめくれ、反り返りが起きやすい傾向があります。

衛生的

リネンには、繊維と繊維を繋ぐ糊(のり)のような役目を果たす「ペクチン」という天然のゲル化剤が含まれています。このペクチンのおかげで、リネンは汚れが染みにくく落としやすい、抗菌性を併せ持つという特徴があります。
また、麻は通気性に優れているので、バクテリアの発生率が低いとされています。清潔さが求められるシーツなどの衛生品に使用されるのも、こうした理由でしょう。

吸水性・保温性

麻は綿の4倍も吸水性に優れています。さらに通気性・発散性にも優れているため、濡れてもすぐに乾きます。
また、繊維の中が空洞になっていることで、熱を放散・保温する機能にも優れています。夏は涼しく、冬は温かいため、1年中利用されています。
吸水性に優れているものの、繊維によって染料の吸収差があるので、均一に染まりにくく染め方には注意が必要です。

麻素材のお手入れについて

麻素材は清涼感のある見た目で、主に夏の素材だと思われがちですが、丈夫で汚れにくい特徴を活かして、衣服、シーツやハンカチはもちろん、テーブルクロスやカーテン、ロープ、テントなど、さまざまなところで使われています。そんな麻素材のお手入れ方法で気をつけなければいけないことは、なんでしょうか。

  • できるだけ水洗いする
  • 家庭での漂白は避ける
  • アイロンは蒸気をかけて高温でプレスする

麻は汚れを落としやすい繊維ではありますが、汗の汚れはドライクリニーニングだけでは落とせず、放置すれば黄ばみの原因になります。

脱水によってシワが生まれやすく繊維も痛むため、洗濯機を使う場合は脱水を短めにして、シワを伸ばして陰干ししましょう。形態安定加工が施されているもの、ポリエステルなどの混紡品を選ぶと、洗濯によるチヂミを防ぐこともできます。

濃色の麻素材は摩擦によって繊維がささくれ立って毛羽立ち、白化現象が発生します。麻素材の衣服などを着用するときは、摩擦に注意してください。

古くから日本で親しまれてきた麻。最近では合成繊維よりも天然繊維を使ったアパレルを志向する人が増え、麻が再び注目を集めています。麻の欠点であるシワも風合いとして楽しむ人も増えているようです。
最後に麻にまつわるプチ情報。日本には「麻」がついた言葉がいくつかあります。

日本の伝統文様のひとつ、「麻の葉模様」(あさのはもんよう)は、六角形の幾何学文様で平安時代から仏像の装飾などに使われてきた柄で、大麻の葉をあしらったように見えることから、麻の葉と親しまれるようになりました。麻は丈夫で成長が早いことから、子どもの健やかな成長を願った、産着の定番デザインです(麻の葉は4ヶ月で4mにもなるほど成長するそうです!)。

ことわざの「麻の中の蓬(麻に連るる蓬)」(あさのなかのよもぎ)をご存知でしょうか。良い人たちと交われば、影響を受けて自分も良くなるという意味です。蓬は曲がりくねって成長する特性がありますが、まっすぐ成長する麻の中では、蓬でもまっすぐ育つというたとえです。
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